出品作品一覧

《窓辺》勝又 優

《窓辺》勝又 優

《風》島田 滋

《風》島田 滋

賞選考

大賞

《窓辺》勝又 優

準大賞

《beginning》馬場 美桜子

優秀賞

奨励賞

審査員所感

立島 惠(佐藤美術館 学芸部長)

本賞も早いもので5年目を迎えた。
新型コロナウイルス感染症も未だ燻ってはいるものの、過去の出来事となりつつあるのが些か恐ろしくもある。しかし、昨年はささやかではあったけれども、初の授賞式が開催出来たことは喜ばしい限りだ。また今回から推薦大学が追加され、同時に推薦人数も増加したことは美術賞としての公益性、多様性において歓迎すべきことである。
さて今回の出品作についてだが、まさしく多様で其々の個性が際立っていた。
大賞の勝又優は、外から室内を覗くように描いた「窓辺」。窓枠、カーテン、そして室内の植物が織りなす独特な空間からは日常の一コマ、そこで暮らす人々の余韻が見事に表現されていた。準大賞の馬場美桜子「beginning」は、圧倒的な描写力を以て雑草の生きる姿と朽ちる姿、つまりは自身の死生観を我々に突き付けた。優秀賞の秋葉麻由子「僕のザリガニ」はエッジの利いた強い筆致で対象を描き切り、同じく優秀賞「名前を呼ぶ」は秋葉とは逆に朦朧とした空気の中から人物が浮かんでは消えるイリュージョンを醸し出していた。奨励賞の島田滋、庭田薫、森田舞、李怡昇は各々既に自己表現を確立しており、今後の活躍が楽しみである。
また惜しくも受賞を逃した作品の中にも心に残るものが多く、是非展覧会場で話を聞いてみたいと思った。

大矢 英雄(洋画家、広島市立大学名誉教授)

今回から参加校が増え、個々の作品だけでなく、今現在の各大学の違いなども感じ取れるだろうことに興味を持って審査に臨んだ。
大賞の勝又さんの作品は他との比較なしに即、最高点を与えた。モノクロに近い淡い調子で派手さは皆無だが、視覚に強烈なものが良い絵画とは限らないだろう。確かな技術に支えられた画面は見飽きることがない。準大賞の馬場さんの作品は、油絵具の特質を活かした強迫的とも言える入念な作画が迫力だ。だが、他のモチーフを扱った場合にどうなるのかが、私には想像出来なかった。
秋葉さんと井上さんも評価が高かった。秋葉さんは単調さを避けるために寒冷紗を貼り付けたのだろうが、他に方法はなかったのか。井上さんは口から吐き出す赤い息が美しかったけれど、人物の表現をもっと工夫した方が良い。
奨励賞はそれなりに評価された作品だが、他に中嶋さんと川名さん、水谷さんが私には目に止まった。中嶋、川名作品は日本画材料らしい乾いた清潔感に溢れていたし、水谷さんはキャンバスの目を活かした確信的な描画に可能性を覚えた。
芭蕉が唱えた不易流行と言う言葉がある。芭蕉が現代を見通していたとは思わないが、常に新陳代謝することは絵画芸術に取っても必然必要だと考える。若い画家にはそれが出来る。メチエを大切にしつつも新しい挑戦をし続けて欲しいと願う。

 

倉島 重友(日本画家、日本美術院同人、広島市立大学名誉教授)

今回も色々趣きの違う作品が並び、受賞作を選ぶのに苦心しました。
大賞の勝又 優「窓辺」綿密で丁寧な仕事に感心しました。色調も美しく静かな中にも強さを感じます。準大賞の馬場美桜子「beginning」草叢をリアルに表現。あざやかな色調でここまで強い表現に至る描写力に凄さを感じます。優秀賞の秋葉麻由子「僕のザリガニ」力強く面白い画面構成で何か可愛らしさを感じます。優秀賞の井上美沙「名前を呼ぶ」渋い色調で深く静かな画面にまとめています。奨励賞の島田 滋「風」流動感のある鯉のぼりの自由な表現に好感を持ちました。下の部分に上部の具象性が響くと良いかなと思いました。奨励賞の庭田 薫「望遠」岩間を流れる水をしっかり描きながら、柔らかさのある空気感が表現されています。奨励賞の森田 舞「羽衣を返して」何か不思議な迫力を感じましたが、人体の表現に不安感も感じます。奨励賞の李 怡昇「記憶の扉」雲の形の変動の美しさを表現していますが、もう一步迫力が出たら良かったと思います。

玉川 信一(洋画家、二紀会常務理事、筑波大学名誉教授)

筑波賞の選考も第5回を迎え、今までの東京藝術大学と筑波大学に武蔵野美術大学と多摩美術大学からの推薦作品も加えることとなった。年齢に幅があるとはいえ複数の大学の若い世代の表現がさらに多様な展開を見せてくれるものと期待していた。思っていたほど大学間に差異がある印象ではなかったがそれでも子細に見ていると微妙に異なる要素がうかがわれ興味深い経験であった。
今回は選考委員の見方がどちらかといえば完成度重視に傾いていたように思われ、結果は落ち着くところに落ち着いてしまった感がある。それはそれで評価できるとは思うが何か若い世代には鮮烈な未完成の存在感を示してくれる作品を望むのはないものねだりだろうか。そういう意味では秋葉麻由子氏や井上美沙氏の作品に関心を持った。筑波賞の勝又 優氏はキャリアを感じる作品で絵肌の処理や装飾的ではあるがまとまった構成が票を集めた。準大賞の馬場美桜子氏は精緻で周到な描写力が評価された。
今回、参加大学が増えたことで筑波賞がさらに発展していくことを期待したい。

藤田 志朗(日本画家、創画会常務理事、筑波大学名誉教授)

今回、5回目の筑波賞の審査にあたり、作家を推薦する大学に多摩美術大学と武蔵野美術大学が加わり4大学となることを聴き、楽しみに審査会場に向かいました。
会場に並んでいる24作品を観て最初に感じたことは今までにも増してこの中から8作品を選ぶのは難しいなと思いました。推薦大学が増え、それぞれの大学の違いが画面にあらわれ、多様な作品が集まっている事を期待していたのですが、どの作品もある程度心地よい色彩で上手く纏まっており破綻のない作品が多く並んでいました。ただ一作一作の画面を丁寧に観ていくとそれぞれの作家の制作意図や心の声が伝わってくる作品が多く、差異をつけるのに苦労しました。結果、私が賞候補に選んだ8作品中、6作品が各賞に入りました。大賞に選ばれた「窓辺」は近くに寄って見れば見るほど画材を丁寧に扱おうという作者の姿勢がうかがえ、魅力的な作品でした。大作を見てみたいと思いました。準大賞の「beginning」統一感のある色彩と油画の持つ艶のある絵肌に強い魅力を感じました。他にも「名前を呼ぶ」、「僕のザリガニ」、「forma(window shade)」、「遠望」、「記憶の扉」、の作品にも心惹かれるものがありました。
今年はアーロンギャラリーで東京展が開催されると聴きました。このことを機会とし、24名の若き作家がこれからも益々精力的に活動されます事を願っております。

会期・会場

第5回「絵画の筑波賞」展

 

つくば展

会  期:2024年 7月27日(土)〜 8月11日(日)
10:00 〜17:00
※最終日8月11日(日)は午後3時に閉館いたします。
※休館日7月29日(月)、8月5日(月)

会  場:豊里ゆかりの森美術館

お問合せ:029-847-5122

所 在 地:〒300-2633 茨城県つくば市遠東676 豊里ゆかりの森 工芸館(展示棟)

U R L:http://www.tsukubaykr.jp

 

東京展

会  期:2024年 9月15日(日)〜 9月29日(日)
10:00 〜17:00
※最終日9月29日(日)は午後3時に閉館いたします。
※休館日なし

会  場:アーロンギャラリー

お問合せ:03-5946-8938

所 在 地:〒162-0837 東京都新宿区納戸町26-8

U R L:https://www.aaron.top/ アーロンギャラリー